~独り~

そこはかとなく、とりあえず、独白体のストーリーもどき

混沌

 どうか、誰か、私の願いを聞いて下さいませぬか、もしも神様が居られるのでしたら、私の願いを叶えて下さいましな、それが神様ってもんでしょう、どうか、どうか、私の願いを聞いて下さいまし。

 私は、それはそれは長い間、そう、平穏無事に過ごしてまいりました、それはそれは安らかに、何事も無く過ごしていたのです、それが或る日突然、訳の分からぬ輩共に邪魔をされ、乱されてしまったのです。こんな事をお許しになるのでしょうか、私はもう、その瞬間から全てに苦しみ、哀しみ、嘆き、どう仕様もなくなってしまったのです。

 忘れもしません、あの日突然、訳の分からぬ輩共が、私に目と耳と鼻と口を無理矢理、粘土細工の様に作り上げてしまったのです。勝手にそんな事をするなんて、そんな暴挙、許されますか。それだけでもう、万死に値すると思いませんか。そのおかげで私は見たくもない光という物を見てしまいました。聞きたくもない音を聞いてしまいました。嗅ぎたくもない匂いを嗅いでしまいました。ああ、それだけでも苦痛なのに、口が何かをしたがるのです。そしてまた訳の分からぬ輩共は私に、手と足を、それはもう、これ見よがしに作り上げ、おかげで私は物を掴み、歩いて移動する羽目になってしまったのです。そうしますと、川へ行き、水面に映える景色に見とれ、川の流れる音に耳を傾け、立ち込める匂いを吸い込み、ついうっかりと川の浅瀬に足を踏み入れ、ついつい手で水を掬って、口に運んでしまったのです。

 ああ、その時に、触れるという行為を知ってしまいました。味というものを知ってしまいました。喉を潤し満たすという事を知ってしまいました。それから色んな欲が生まれて、いろんなものに触れたがったり、川に住まう魚を食べてしまったり、木にたわわに実る果物をかじってしまったり。まだそんな事は序の口でしょう、言葉というものを覚えてしまったが為に雑念が生まれ、その事によって、色々と考える様になってしまって、迷路の中に入り込んでしまった考えを救う為に知識を求め、知識を得たが為にまた、考え込んでしまう悪循環の始末です。

 どなたでしたか、考える故に我あり、などと巫山戯た事を仰有ったのは。考えなくとも私は私でしたのに、考えたが故に、救い様のない、ありとあらゆる苦痛、苦悩にとらわれる事となってしまったのです。

 私がこんなに苦しんでいるのに、訳の分からぬ輩共は何やら満足気にふんぞり返っていて、とてもじゃないが許せない。鉄槌を喰らわせてやりたいのですが、そうしますと、私はまた苦しむ羽目になってしまいます。はてさて、どうしたら良いのでしょうか。もう見当も付きませぬ。ですから、お願いに御座います、どうか聞き入れて下さいまし、私を元に戻して下さいませぬか。訳の分からぬ輩共に改造されてしまった、その前の、長い間、平穏無事に過ごしていた私に戻して頂きたいのです。勝手に改造したのですから、元に戻す事も出来るでしょう。無理とは言わせませんよ、どうか私の願いを聞いて下さいまし。

 え、私、ですか?

 申し遅れました、『xaoc(ハーオス・混沌)』に御座います。